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IFRS対応プロジェクト最前線 Part8:2011年3月時点でのIFRS対応状況(2011/3/14)

半年前までは、まだまだIFRS対応プロジェクトをスタートしておらず、情報収集や勉強段階の企業も多かったようです。
それでも、私の周りでは2年前から対応を開始していた企業も一部にはありましたし、2010年後半から正式にプロジェクトを開始した企業もありました。
今回は私が実際に状況をお聞きした企業について、IFRSの対応状況を整理したいと思います。

1. 2009年6月対応開始企業
最初は会計監査人である監査法人と会計アドバイザリー契約を締結されました。
契約内容としての監査法人のタスクには、以下の項目が含まれていました。
@ IFRSの勉強会の開催
A 日本基準とのGAP分析
B 基準差についての論点整理
C グループ・アカウンティング・ポリシーの策定
D プロフォーマ・フィナンシャル・ステートメントの作成
E プロジェクト・マネジメント(PM)
こちらの企業では、@だけで6ヶ月くらいかけておられました。
その後A〜Dを1年間で完了する予定でした。
しかし、監査法人によるEのPM、特に進捗管理がうまく機能せず、3ヶ月遅延したようです。
結局、Cのグループ・アカウンティング・ポリシーはIFRSの基準書を写した程度のものでしかなく、決算実務に使えるように、作り直されました。
Dのプロフォーマ・フィナンシャル・ステートメントは、フォーマットのみを提出されて、中身の数値は「企業サイドで作成するように」とのことでした。
4月からは、PMを他社に依頼され、IFRS対応後の業務プロセスとシステムの設計を開始される予定です。
ただ、「収益」や「リース」など、公開草案を前提に@〜Dを作成されているので、IFRSの基準が確定すると、一部手直しが発生するようです。
しかし、多くはそのまま使用できるので、システム対応や新しい業務プロセスは早めに対応が完了すると思われます。

2. 2010年8月対応開始企業
最初は会計監査人である監査法人と会計アドバイザリー契約を締結されました。
契約内容としての監査法人のタスクには、以下の項目が含まれていました。
@ 日本基準とのGAP分析
A 基準差についての論点整理
B グループ・アカウンティング・ポリシーの策定
C プロフォーマ・フィナンシャル・ステートメントの作成
こちらは、@とAを1月末までに完了し、BとCを2月〜3月に実施しています。
プロジェクトは順調に進捗し、計画通り、3月末までにはBのIFRS基準書レベルのグループ・アカウンティング・ポリシーが策定できそうです。
Cのプロフォーマ・フィナンシャル・ステートメントについても、主要項目のデータを収集し策定中で、こちらも予定通り作成できそうです。
ただ、こちらも「収益」や「リース」など、公開草案を前提にプロジェクトを進められていましたが、「リース」や「非金融負債」などは、IFRSの基準化がかなり不透明になっているので、一部検討を中止している項目があります。
ただ、論点や課題を整理しながら進められているので、手戻りがあったとしても影響を受ける論点や課題が明確なので、混乱は最小限にしながら進めて行けそうです。
4月からは、例示や簡便的な手続きをさいようするなど、より具体的なグループ・アカウンティング・ポリシーの策定と、IFRS対応後の業務プロセスとシステムの設計を開始される予定です。
システム対応や新しい業務プロセスは早めに対応が完了すると思われます。特に、固定資産システムについては、すでにシステムベンダーの選定に着手され、@AのGAP分析と論点整理で明確になっている項目を満たす固定資産システムが選定できる段階になっています。

3. 2011年3月〜4月対応開始予定企業
現在、監査法人、コンサルティング会社、SIer、会計システムベンダーなどに、IFRS対応プロジェクトに関するコンサルティング・サービスについて、合見積りを打診している状況です。
場合によっては10社近くの合見積りを依頼している企業もあるようです。

ところが、大手監査法人やコンサルティング会社については、IFRSを熟知したメンバーがすでに、上記1や2のような先行企業のプロジェクトに参画しており、提案を受けても、2番手3番手のメンバーがアサインされるようです。
まさに、J-SOX対応と同じ状況が展開されているというのが実感です。
J-SOX対応の際にも、日本中のほとんどの上場公開企業が、基準が公表されるまで対応せず、基準が確定してから一斉に対応を始めましたが、その時には公認会計士の中でも、J-SOXを理解している者が少なく、各企業では、公認会計士の言に左右され、無用なキー・コントロールを増やされて、非効率な業務やシステムになってしまったケースが多発しました。

今回も、IFRSを熟知し、豊富な経験を持つ公認会計士はまだまだ十分とは言えないので、できるだけ早くプロジェクトをスタートさせて、優秀なコンサルタントを参画させるべきでしょう。
ちなみに、大手監査法人では、IFRSを熟知している公認会計士を法人内部で「チャンピオン」などといった称号にしているようです。
ですから、監査法人と契約したからといって安心しないで、アサインされた公認会計士が「チャンピオン」レベルかどうか確認されることをお勧めします。

ちなみに私はすでに数件のプロジェクトに参画しているので、もうこれ以上のプロジェクトには参画できる状況にありません。
ご依頼をいただいても、メールベースでお答えするくらいのご対応しかできないので、何か他の形で多くの皆様にお答えできないかと思案している状況です。
また、何か対応できるようになれば、このサイトでお知らせしようと思います。


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Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)
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  Part28:IFRSの任意適用を拡大させる第一弾か?(2013/6/23)   
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  Part42:単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き(2016/9/9)
  Part43:米国基準を適用している企業の動き(2017/3/15)
  
中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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