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子会社のIFRS Part1:組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方(2014/12/11)

親会社が連結財務諸表についてIFRSを適用することになると、重要な子会社には、IFRSベースの財務諸表を作成するよう、親会社から要請される場合があります。

本ブログで今回から新たに始める『子会社のIFRS』では、親会社からIFRS対応をせまられた子会社の実務に役立つと考えられるテーマをとりあげたいと思います。

今回は、子会社にとって理解しにくい「開始仕訳」あるいは「繰越仕訳」と表現される仕訳について解説したいと思います。

1. 子会社がIFRSベースの財務諸表を作成するパターン

子会社がIFRSベースの財務諸表を作成するパターンには、大きく分けて2つのパターンがあります。

(1) パターン1
下図のように、会計システムで「複数元帳対応」を行い、一つひとつの取引について、日本基準とIFRSの両方の帳簿に仕訳を入力するパターンです。
この場合、複数の元帳から、日本基準の財務諸表とIFRSの財務諸表が、それぞれ作成できます。



(2) パターン2
下図のように、会計システムでは、日本基準にのみ対応して、一つひとつの取引の仕訳は、日本基準の元帳にのみ入力します。
この場合、まず日本基準の元帳から、日本基準の財務諸表が作成されます。



そして、日本基準とは異なる処理が要求される論点(会計基準差異項目)について、「組替仕訳」を作成し、日本基準の財務諸表に「組替仕訳」を加味して、IFRSの財務諸表を作成します。



会計システムでの「複数元帳対応」をするには、コストや時間がかかるために、パターン2で対応されるケースが多いようです。
また、数年後にはパターン1の「複数元帳対応」を目指すが、当面は、パターン2でしのごうとするケースも多いようです。

いずれにしても、パターン2では、子会社にとって聞きなれない「組替仕訳」を作成する必要があります。

2. パターン2(会計システムでは日本基準のみに対応するパターン)での繰越処理

(1) 会計システムの繰越処理
新しい年度になると、ほとんど例外なく、会計システムの「残高繰越処理」が行われます。
年度末の残高データを、新年度の期首残高データとして、会計システムにセットする処理です。
この「残高繰越処理」を実行することで、新年度の仕訳が入力できるようになります。



(2)新年度の会計伝票の入力と財務諸表の作成

「残高繰越処理」の実行後、新年度の一つひとつの取引の仕訳は、日本基準の元帳にのみ入力していきます。
期末を迎えると、前年度と同様に日本基準の元帳から、日本基準の財務諸表が作成されます。



(3) 繰越ができないIFRS財務諸表

IFRSの財務諸表は、前期の財務諸表に対して「繰越処理」を行って作成するわけにはいきません。
パターン2では、IFRSを作成する元帳がないからです。



(4) 組替仕訳での「繰越処理」

そこで、新年度の日本基準の財務諸表に、新年度の仕訳に係る会計基準差異の組替仕訳を加味する前に、前年度作成した組替仕訳について「繰越処理」を行うのです。
これを図で表すと以下のようになります。



(5) 当期仕訳の組替仕訳の作成とIFRS財務諸表の作成

日本基準の元帳がある会計システムでの「残高繰越処理」実行後、当期の仕訳を加味した日本基準の財務諸表@に、前年度の組替仕訳から作成した繰越組替仕訳Aと、当期発生した日本基準の仕訳に対する当期組替仕訳Bを加味してIFRSベースの財務諸表を作成します。
(下図参照)





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Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
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  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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