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IFRS対応プロジェクト最前線 Part33:骨太の方針とIFRS(2014/6/27)

2014年6月24日に閣議決定された、いわゆる「骨太の方針」の正式名称は、『「日本再興戦略」改訂2014−未来への挑戦−』です。

この中で「IFRS」に触れられている箇所が2箇所あります。

一つ目は、33ページです。

「第二 3つのアクションプラン」の
「一.日本産業再興プラン」の
「1.緊急構造改革プログラム(産業の新陳代謝の促進)」の
「(3)新たに講ずべき具体的施策」の
「ii)ベンチャー支援」の
「@ 「ベンチャー創造協議会(仮称)」等による大企業の巻き込み」
に以下の記載があります。

国際会計基準(IFRS)の適用促進等を通じた大企業等との M&A によるベンチャー企業の出口戦略の拡大


二つ目は、78ページです。

「第二 3つのアクションプラン」の
「一.日本産業再興プラン」の
「5.立地競争力の更なる強化」の
「5−2金融・資本市場の活性化、公的・準公的資金の運用等」の
「(3)新たに講ずべき具体的施策」の
「i)金融・資本市場の活性化」の
「CIFRS の任意適用企業の拡大促進」
に以下の記載があります。

・2008 年の G20首脳宣言において示された、会計における「単一で高品質な国際基準を策定する」との目標の実現に向け、IFRS の任意適用企業の拡大促進に努めるものとする。 ・また、従来進めてきた施策に加え、IFRS の任意適用企業が IFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、また、移行によるメリットにどのようなものがあったのか、等について、実態調査・ヒアリングを行い、IFRSへの移行を検討している企業の参考とするため、「IFRS適用レポート(仮称)」として公表するなどの対応を進める。 ・上場企業に対し、会計基準の選択に関する基本的な考え方(例えば、IFRSの適用を検討しているかなど)について、投資家に説明するよう東京証券取引所から促すこととする。

【解説】

前回の本コラム「IFRS対応プロジェクト最前線 Part32:自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載」で取り上げた「日本再生ビジョン」と比較しながら解説してみます。


1.強制適用について:

「日本再生ビジョン」では、2016年までのできるだけ早い時期に、強制適用にすべきかどうか、強制適用をする場合には、いつから適用させるか、そのタイムスケジュールを決定する作業を、具体的にかつ早急に実施するべきだということを提言していました。
「骨太の方針」では、「強制適用」には全く触れられていません。
自民党と政府では少し温度差があるように感じられます。


2.任意適用の具体的な数値目標について:

「日本再生ビジョン」では、「2016年末までに300社」という具体的な数値目標が提示されていました。
そして、
「政府は、その実現に向けてあらゆる対策を検討し、実行に移すとともに、積極的に環境整備に取り組むべきである。」
としていました。

「骨太の方針」には、具体的な数値目標は全く示されていません。

ただ、「骨太の方針」の78ページの3項目目にある、

上場企業に対し、会計基準の選択に関する基本的な考え方(例えば、IFRSの適用を検討しているかなど)について、投資家に説明するよう東京証券取引所から促すこととする。

上場企業に対し、会計基準の選択に関する基本的な考え方(例えば、IFRSの適用を検討しているかなど)について、投資家に説明するよう東京証券取引所から促すこととする。


という表現は、任意適用拡大に向けた具体的な取り組みのひとつと言えなくもないと思います。

いわゆる「ソフト・ロー」的な取扱いですね。

「独立社外取締役」で展開された動きにとてもよく似た印象を受けます。

この項目については、具体的な数値目標は明示されなかったものの、方向性としては、IFRS任意適用拡大の方針が示されているように感じます。


3. JPX日経インデックス400の定性評価項目としてのIFRS:

「日本再生ビジョン」では、JPX日経インデックス400に採用された企業には、IFRSの任意適用を積極的に働きかけるべきことを提言していました。
また、JPX日経インデックス400に採用する際の基準として、IFRS採用企業への加点割合を増加させるべきことも提言していました。
「骨太の方針」には、IFRSとJPX日経インデックス400を関連付ける記載は全くありません。


4.IFRS適用レポートについて:

この項目は、「日本再生ビジョン」で提言された内容が、ほとんどそのまま、以下の「骨太の方針」の78ページの2項目目に反映されています。

また、従来進めてきた施策に加え、IFRS の任意適用企業が IFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、また、移行によるメリットにどのようなものがあったのか、等について、実態調査・ヒアリングを行い、IFRSへの移行を検討している企業の参考とするため、「IFRS適用レポート(仮称)」として公表するなどの対応を進める。

「IFRSを任意適用して何が良いの?」という素朴な疑問に対して、実際に先行適用した企業の実態をレポートとしてまとめて答えようということです。


5. のれんの非償却:

この項目について、まず「骨太の方針」の33ページを再度みてみましょう。

・国際会計基準(IFRS)の適用促進等を通じた大企業等との M&A によるベンチャー企業の出口戦略の拡大

これだけ見ると、何が書いてあるのかわかりにくいですね。

「国際会計基準(IFRS)の適用促進等」を通じると、どうして「M&A によるベンチャー企業の出口戦略の拡大」につながるのでしょうか。

ここで「日本再生ビジョン」の以下の記載を見ると、ナゾが解けてきます。

大企業やベンチャー企業が将来有望な技術やモデルを持つベンチャーに対して行うM&A を支援することは、成長戦略の推進においてきわめて重要である。この点、わが国の企業会計基準がこうしたM&A活動の障害となる事態は避けるべきである。現在の日本基準においては「のれんの償却」が義務付けられており、のれんの非償却が認められる国際財務報告基準(IFRS)との関係で競争力に問題が生じかねない。

以上をストーリー建てて解説すると以下のようになります。

a) ベンチャーが創業し、ある程度そのビジネスや技術が確立されてくると、さらなる事業拡大のために大企業に買収されることは、欧米では常識である。

b) ベンチャー企業の創業者としては「創業」という最初の難関を突破したという意味で、「出口戦略」と表現される。

c) 大企業としても、ある程度そのビジネスや技術が確立された後で、資金力を生かして、自社ビジネスに取り込めるので、リスクが低い。

d) しかし、大企業がベンチャー企業を買収する際に、のれんが発生し、毎期償却することが会計基準で義務付けられると、数年間にわたって大企業自身の損益を圧迫し続けるので、大企業によるベンチャー企業の買収がなかなか進まない原因になっている。

e) したがって、大企業がIFRSを適用し、のれんを償却しなくても良い状況が進めば、大企業によるベンチャー企業の買収が促進され、日本産業の成長に効果がある。

ざっと説明すると以上です。

また、「日本再生ビジョン」では、さらに日本の会計基準にも踏み込んで、以下のような表現をしていました。

M&A促進、米国企業とのイコールフッティングを考慮するならば、のれんは非償却とすべきとの声が強い。

「骨太の方針」では、さすがにここまでは踏み込まれなかったようです。

【まとめ】

以上を概観すると、「日本再生ビジョン」の提言が「骨太の方針」に反映された内容を勝敗で表現すると、2勝2敗1引き分けといったところでしょうか。

2014年6月24日に閣議決定された「骨太の方針」(「日本再興戦略」改訂2014−未来への挑戦−)は以下のサイトで閲覧できます。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdf


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Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
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Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
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  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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