有限会社ナレッジネットワーク 公認会計士 中田清穂のサイト ホーム 有限会社ナレッジネットワーク 公認会計士 中田 清穂
ホーム > 週刊中田コーナー >IFRS対応プロジェクト最前線 Part27:J-IFRS(日本版IFRS)のねらい(2013/6/20)
IFRS対応プロジェクト最前線 Part27:J-IFRS(日本版IFRS)のねらい(2013/6/20
)

平成25年3月26日以降、毎月開催されている企業会計審議会(企画調整部会)は、6月に入ると複数回開催されるという、昨年までとはまるでスピード感が違います。
6月19日の企業会計審議会では、金融庁がとりまとめた報告書が承認され、任意適用の要件緩和とJ-IFRS(日本版IFRS)の導入が正式に決定されました。

最近特に注目を集めているのが、このJ-IFRSといわれるものです。
「日本の証券市場に4つも会計基準が存在する事態になり、投資家の混乱を招く」などと批判的な意見もあるようです。

しかし、ここでは、
  1. なぜ金融庁がこのタイミングで急速なスピードアップをし始めたのか?
  2. そして、なぜJ-IFRSが必要なのか?
といった疑問(ナゾ?)について私見を述べたいと思います。

まず、IFRSの新しい基準の策定や改訂は、IASB(国際会計基準審議会)が行っています。
また、基準の解釈指針を策定しているのが、IFRICs(IFRS解釈指針委員会)です。
さらに、IASBやIFRICsに戦略的な助言を与える組織がIFRS諮問会議です。

そして上記3つの組織(IASB、IFRICs及びIFRS諮問会議)のメンバーは、IFRS財団が任命します。

そして、そのIFRS財団のメンバーは、モニタリングボードによって任命されます。

これを図示すると以下のようになります。




IFRSは世界中で使われることを前提にしているので、特定の国や市場のために偏ってはいけません。
そこで、IFRS財団を監視する組織として、モニタリングボードが創設されたのです。

現在モニタリングボードのメンバーは、以下です。
  1. 日本の金融庁【議長】
  2. 証券監督者国際機構(IOSCO)
  3. 欧州委員会(EC)
  4. 米国証券取引委員会(SEC)
    (オブザーバーとしてバーゼル銀行監督委員会)
ここで重要なポイントとして、IFRS財団のメンバーを任命し監視する、非常に重要な役割をもつモニタリングボード・メンバーとして、日本の金融庁が入っていて、しかも議長を担っているという点を覚えておいてください。

次のポイントは、このモニタリングボードの既存メンバーは定期的に見直すことも決められているということです。
  1. 定期的な見直しは2013年(つまり今年!!)から実施され、3年ごとに行われます。
  2. 見直しはメンバーの自己評価に追加情報を加味して評価されます。
  3. 見直しの際に、メンバーとしてふさわしいかどうかは、「メンバー要件」をどの程度達成しているかで評価されます。
  4. 既存メンバーが「メンバー要件」をあまりにも満たしていなければ、見直しの際の議決権が一時停止されることがあります。
  5. 4.の状況が次の(3年後の)定期的な見直しまで改善されないと、他のメンバーの合意によりモニタリングボード・メンバーとしての資格を取り消されることがあります。
つまり、日本の金融庁が現在モニタリングボード・メンバーであり議長を務めているからと言って、IASBなどに影響力を持ち続けるために、今後もメンバーとしてあり続けられるかというと、そうは問屋が卸さないルールが明確に決まっているのです。

最後のポイントは、上記定期的見直しの中に再三触れられている「メンバー要件」です。
以下の要件を満たさなければ、モニタリングボード・メンバーとしてふさわしくないということです。

【既存メンバーの要件】
メンバーが監視する市場で資金調達する企業の連結財務諸表について、
  1. IFRSが強制適用されているか任意適用が認められている。
  2. 実際にIFRSが顕著に適用されている状態となっている、もしくは、
  3. 妥当な期間でIFRSが顕著に適用されている状態にすることを既に決定していること
1.は、すでに日本ではIFRSの任意適用が認められているのでクリアしています。
2.は、日本ではまだIFRS適用会社が10社前後ですから、「著しく」満たしていません。
3.もまだ決定されていません。

1.はクリアしているので、2.か3.の要件をクリアできるかどうかが重要です。
クリアすべき期限は、上述した定期的見直しが2013年(今年)から実施されることを考えると、今年中にクリアする必要があるでしょう。
もう時間がありません。

ここに、今年になって金融庁が毎月のように企業会計審議会を開催して、議論を急ぐ根拠があると私は考えています。

残る疑問(ナゾ?)は、「J-IFRSがなぜ必要か」ということです。

2.の要件を今年中にクリアすることはほとんど不可能です。
活路は、3.を満たすことしかないと思われます。

そして3.を満たす具体的な方法として、



と主張できるところまで、今年中に持っていきたいのではないでしょうか。

そうすれば、少なくとも今年の見直しタイミングでは、金融庁はモニタリングボード・メンバーの椅子を失わないですむでしょう。

ピュアIFRSでは、のれんを償却しなかったり、開発費を資産計上したりする基準が、多くの日本企業から敬遠されているので、ピュアIFRSの任意適用企業を飛躍的に増加させることは難しいと判断したのだと思います。
その判断は間違っていないと、私も感じています。

最後に忘れてはいけないことがあります。
それは、IFRS財団は、IFRSの修正やカーブアウトを基本的には認めていないということです。
したがって、当面日本の努力として、IFRSに限りなく近いJ-IFRSの採用を見守るとしても、いずれは認められなくなる可能性が高いために、数年後には、J-IFRSとして今回修正されるIFRSの部分は、いずれその修正がなくなり、ピュアIFRSになるであろうということです。
その証拠に、6月19日の企業会計審議会で金融庁が作成した報告書には以下のような表現があるのです。



したがって、上場企業の皆さんは、企業会計審議会や経団連さらには、自民党の金融調査会・企業会計小委員会などの動きを見ながら、今回検討したような背景や意図を抑えて、
  • 自社で日本基準(あるいは米国基準)のままでいるのか、
  • ピュアIFRSにするのか、
  • J-IFRSを採用するのか
といった判断をする必要があると思います。

2011年の自見発言以来、昨年末までほとんど何の決定も行われなかった日本のIFRS対応とその方向性が、今回6月19日の企業会計審議会で明らかになりました。
今回の決定は、非常に重要な転換点になると思います。

6月19日の企業会計審議会の概要については、以下の記事が簡潔にまとめられていると思います。
参考にしてください。

http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1306/19/news07.html

週刊中田コーナー掲載内容へのご質問は、ナレッジネットワークお問い合わせまでどうぞ!
 
カレントトピックス
災害時の開示
Part1:災害時の決算処理(2011/3/18)
Part2:特定非常災害特別措置法(2011/3/28)
Part3-1:三洋電機(適時開示−地震発生から2日後)(2011/3/29)
Part3-2:三洋電機(適時開示−地震発生から約2ヶ月)(2011/3/29)
Part3-3:三洋電機(半期報告書:後発事象)(2011/3/29)
Part3-4:三洋電機(四半期決算短信)(2011/3/29)
Part3-5:三洋電機(有価証券報告書)(2011/3/29)
Part3-6:三洋電機(招集通知)(2011/3/29)
Part4:後発事象の開示事例集(2011/3/30)
Part5:法務省「定時株主総会の開催の延期」について(2011/3/30)
Part6:有価証券報告書での開示事例集(2011/4/1)
Part7:東日本大震災に関する有報での開示事例集(2011/4/4)
Part8:協会会長通牒にある『阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について』(2011/4/6)
Part9:東日本大震災の四半期報告書での開示事例集(2011/4/13)
Part10:国税庁の「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(2011/4/18)
Part11:国税庁の法令解釈通達「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」と質疑応答事例(2011/4/22)
 

IFRS開示事例研究
Part1:HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約
(2015/6/9) 
  Part2:日本取引所(2015.03)の現金同等物の開示
(2015/7/28)
  Part3:改定されたIAS第1号「財務諸表の表示」(開示イニシアチブ)の適用状況調査(2015/7/28) 
  Part4:定率法の採用を表現している企業の開示(2016/3/8)
  Part5:金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」の「留意事項」と「重要性の方針の開示例」(2016/4/7)   
 
子会社のIFRS
Part1:組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方
(2014/12/11)
   
IASB概念フレームワークと日本版IFRS
Part1:保守主義の復活?
(2013/10/22)
  Part2:発生可能性(蓋然性)の取り扱い(2013/11/1) 
  Part3:「純利益とOCI及びリサイクリング」の取り扱い(2013/12/4)  
   
日本企業をダメにする会計制度
Part1:開発費会計
(2013/2/3)
  Part2:減損会計
(2013/2/11)  
  Part3:のれん
(2013/2/21)   
  Part4:リース会計
(2013/4/1)
   
個別論点IFRS
Part1:金型(2011/1/28)
Part2:広告宣伝費、販促費及び通信販売のカタログ(2011/2/4)
Part3:IFRS適用で失われる税務メリット(2011/2/11)
Part4:支払利息の原価参入(2011/2/26)
Part5:有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(2011/4/18)
Part6:投資不動産とリース会計(2011/6/10)
Part7:棚卸資産会計での製造間接費の配賦における「正常生産能力」(2011/6/19)
Part8:外貨建取引の換算と個別会計システム(2011/9/7)
Part9:減損の兆候(2011/9/26)
Part10:経済的耐用年数のあの手この手(2011/10/13)
Part11:現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定(2011/10/29)
Part12:有給休暇引当金を計上しないケース(2011/11/9)
Part13:自己株式を取得するための付随費用(2011/12/15)
Part14:有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)(2011/12/26)
Part15:退職給付会計と年金数理人(2012/1/23)
Part16:製品原価計算項目の会計基準差異の税務上の取扱い(2012/3/13)
  Part17:棚卸資産の評価とAging(長期滞留)(2012/5/23)
  Part18:資本的支出後の減価償却資産の償却方法等(2012/12/24) 
  Part19:開発費の償却費は原価参入するべきか?(2013/4/3)  
  Part20:有給休暇引当金の対応事例(2014/1/24)  
  Part21:改定後IAS第19号の退職給付の開示事例(2014/4/3)   
  Part22:有給休暇引当金開示の実態と分析(2014/9/9)    
  Part23:開発費資産計上の実態と分析(2014/11/10)   
  Part24:賦課金の会計処理と固定資産税(2015/11/18)  
  Part25:闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題(2016/9/9)   
  
IFRS対応プロジェクト最前線
Part1:影響度調査での重要性(2010/10/19)
Part2:影響度調査が終わったら(2010/10/25)
Part3:グループ会計方針(2010/11/23)
Part4:影響度調査後のプロジェクト体制 (2010/12/9)
Part5:公開草案への対応 (2011/1/7)
Part6:影響度調査の盲点 (2011/1/21)
Part7:IFRS適用時の監査対応 (2011/2/21)
Part8:2011年3月時点でのIFRS対応状況(2011/3/14)
Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)
Part10:中国子会社の決算期ズレへの対応方法(2011/5/18)
Part11:IFRSでの勘定科目体系(2011/5/27)
Part12:グループ会計方針での重要性の判断規準(2011/6/1)
Part13:自見庄三郎金融担当大臣の談話に関する留意点(2011/6/27)
Part14:6月30日の企業会計審議会の議論について(2011/7/14)
Part15:IFRS適用の今後の展開予測(2011/7/14)
Part16:さまざまなグループ会計方針書(2011/8/31)
Part17:IFRS決算体制はいつから検討するか(2012/2/8)
  Part18:馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット(2012/4/11)
  Part19:金融商品としての売掛金の開示(2012/4/24) 
  Part20:うちはどうするIFRS?(2012/6/19)  
  Part21:膨大な注記への対応(2012/7/31)
  Part22:定額法への減価償却方法の変更の動向(2012/8/27) 
  Part23:減価償却方法変更の記載事例(2012/9/16)  
  Part24:耐用年数変更の記載事例(2012/10/1)   
  Part25:監査法人へのIFRS対応報酬の支払状況(2012/11/12)  
  Part26:IFRS任意適用の動向(2013/4/2) 
  Part27:J-IFRS(日本版IFRS)のねらい(2013/6/20)  
  Part28:IFRSの任意適用を拡大させる第一弾か?(2013/6/23)   
  Part29:IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割(2013/9/2)    
  Part30:日本企業同士の合併とIFRS(2013/10/11) 
  Part31:新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか(2013/12/24)  
  Part32:自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載(2014/6/5)
  Part33:骨太の方針とIFRS(2014/6/27)  
  Part34:任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性(2015/1/13)     
  Part35:注記情報の大幅削減が可能に!!(2015/2/9)  
  Part36:開示ボリュームを激減させる具体例(2015/5/14)   
  Part37:連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況(2015/6/9)   
  Part38:IFRS適用の対応コスト(2015/6/9)     
  Part39:4つの会計基準収斂の方向性(2015/6/9)  
  Part40:IFRS財団は日本の現状をどう見ているか(2015/7/28)   
  Part41:丸紅の初度適用(短信からの初度適用)(2015/9/8)   
  Part42:単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き(2016/9/9)
  Part43:米国基準を適用している企業の動き(2017/3/15)
  
中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


このページの先頭へ
Copyright(C) 2010 Knowledge Network.Ltd All Rights Reserved.