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IFRS対応プロジェクト最前線 Part15:IFRS適用の今後の展開予測(2011/7/14)

6月30日に開催された企業会計審議会総会は、企業会計審議会企画調整部会と同時開催されました。

企業会計審議会企画調整部会の委員等名簿が、金融庁のサイトに公表されています。
この名簿では以下の特徴があると思います。

(1) 従来の委員8名の他に、「臨時委員」が任命されていること
(2) 「臨時委員」の数は、26名にものぼること
(3) 「臨時委員」の構成は、一見するとIFRSの適用を積極的な推進論者と、強硬に反対する「慎重論者」がバランスよく任命されているように見えること

従来の委員の8名は、2009年6月にいわゆる「中間報告」を作り上げた人たちです。
すなわち、IFRS強制適用の推進論者たちと言えるでしょう。

ここで、自見庄三郎金融相の談話により、「中間報告」を早急に見直しが必要になったことから、大臣の意向に沿うような委員構成にしたのでしょう。
そうでなければ、「臨時委員」などは必要ないはずです。
そして26名ほどの人数も必要ないでしょう。

そもそも40名近くの出席者で、まとまりのある議論ができるはずがありません。
コンサルタントの鉄則として、報告の場ではなく、議論の場にするためには、ミーティングメンバーは、8名までが限界とされています。
人数が多すぎると、発言しにくくなるからです。
もしかすると、発言しにくい状況をあえて作り出しているのかもしれません。

26名の「臨時委員」の顔触れをみると、「IFRS推進論者」はおとなしい方々が多く、
一方、「IFRS慎重論者」には、どんな状況でも積極的に発言される方が多いようです。

つまり、私の個人的な印象としては、会議の出席者は多いものの、実際に発言する人は限られていて、実際に発言されている人で見ると、「IFRS慎重論者」の方が数的優位になっているように見えるのです。

ここに金融庁の意図が感じられるのです。
金融庁は、「審議会」や「委員会」を設置し、大学教授や財界の代表的企業に委員を任命し、そこで出た結論を上程させて、「学者先生や企業の代表が決めたことだから」ということで、制度を作り上げるのです。
ここで、決定的に重要なのは、「審議会」の委員の任命です。
誰を委員にするかは、金融庁が決めるのです。

ただし、ここで気をつけなければならないポイントがあります。
それは今回の企業会計審議会が、「政治主導」の大臣談話の影響を強く受けていることです。
周知の通り、現在の日本の政局は混迷していて、いつ大臣の交代や政権の交代があるか分からない状況です。
したがって、金融庁では、今後また「政治主導」ということで、自見庄三郎金融相とは別の人が金融担当大臣となって、別の事を言い出したら、また方針転換の対応をしなければならなくなるでしょう。
八ッ場ダムの時も、前原氏が中止を明言した後、馬渕氏が中止方針を事実上撤回させました。

金融庁は、このような先の見通しが立ちにくい状況だからこそ、企業会計審議会の「委員」は代えずに「臨時委員」を任命したのではないでしょうか。
大臣が変わって、IFRSへの対応方針が変わっても、「臨時委員」ならすぐに代えられるのでしょう。
重要なポイントはここです。
現時点では、IFRSへの適用は相当程度後退しています。
しかし、今後の政局次第では、また話が変わる可能性があるのです。

企業会計審議会では、これまでの実績からして、最終結論が出るのに約半年から1年はかかるでしょう。
それまでに政権政党が変わったり、担当大臣が変わったりしても、金融庁は「臨時委員」の解任と任命で、どのようにも対応できるようにできるのです。

私が強調したいのは、政治がどのように変わろうとも、我々実務界の人間は、最も無駄なく負荷のない対応を考えなければならないということです。

したがって、実際に対応するポイントとしては、以下のような項目が考えられます。
(1) 今回の大臣談話から始まった方針転換も、政局次第でいつまた大転換が起きるかわからないということを、プロジェクト内で共通認識が持てるようにしておくこと
(2) 現時点では、IFRS強制適用が2017年3月期以降になっているが、リースや収益認識などのコンバージェンス項目の適用年度には注意を怠らないこと
(3) IFRS対応への活動は、完全に止めないようにして、最低限、情報収集に努め、収益認識など、時間がかかりそうなトピックについては、検討を持続しておくこと
(4) 監査法人によるアドバイザリーやコンサルタントの関与も、相当程度圧縮するにしても、完全には撤退させず、当面はコンバージェンス項目への対応や情報収集源として有効なスタッフだけは残すようにしておくこと

民主党政権が発足して以来、八ッ場ダム問題に始まり、普天間基地問題など、政治主導により多くの混乱が発生してきましたが、いよいよ決算の現場も巻き込まれる形になりました。
私はその是非を論じるつもりはありません。
ただ、政治がどうなろうとも、その中で如何に乗り切るかという実務対応を考えているのです。
事実として、決定権限のある担当大臣の発言が、政治主導ということでいきなり重要な方針を決めてしまう世の中になってしまったのです。
そうであればそれを受け止めて、最も負荷がなく無駄もない対応ができるよう、目を凝らし、頭を使うことが必要なのだと思います。

そのためには、他社の動向も重要とは思いますが、まずは自分で情報を収集し、自分できちんと判断ができるようにならなければならないと思います。
他社の動向にいつまでも引きずられていると、内部統制対応で、無駄な3点セットを作り、膨大な負荷をかけてしまった時のように、日本中が共倒れとなるのです。


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Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)
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Part15:IFRS適用の今後の展開予測(2011/7/14)
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中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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